誰一人取り残さない医療活動~都立病院の独立行政法人化への批判的検討~

こんにちは 芋川ゆうき です。

住民の安心と生活を支える公立病院。

都内は区立病院が極端に少なく、私立病院を含めて6施設

都立病院も8施設と、数えるほどしか存在しません。(2019年現在)

現在、小池都知事が進めようとしている「都立病院の独立行政法人化」への批判的検討の勉強会の内容を共有いただきまして、まとめたいと思います。

当面の東京都病院経営本部との政策論争上の主な焦点として、次の3つが分析課題として示されました。

①400憶円繰入問題(400憶円の一般会計からの繰入金は、赤字設)

②行政的医療の精査(東京都が独自に編み出した行政医療の狙い)

③予算財政制度、人事給与について(予算・人事等の硬直から柔軟にできる)

検討1・400憶円繰入金は、赤字の埋め合わせてはない、都民の生命を守る都立病院の役割に全面的に使われている。

400憶円問題とは、一般会計から都立病院の会計に「繰り出し」行政支援を指しています。都立病院の方は、「繰入金」と呼ばれます。この400憶円が、都立病院の赤字である、この赤字を解消するためには、病院の経営形態を地方独立行政法人にすることが必要という論説が一部から繰り返し主張されて、病院現場でも「400憶円は赤字だけれど、必要な赤字」説も根強く残っていました。

実際は、総務省の基準(一般会計が持つべき性格としての「繰り出し基準」)もあり、赤字という財政上の理解は、過ちであることが明らかになりました。

図1は、平成28年度の決算分析です。これは、私たちが病院の決算元データの「繰入金に関する調」を入手して、400憶円の使い道を示したものです。高度医療・精神医療等、具体的な区分ができたのです。

そして、病院経営本部においても同様の資料を元にして、2018年9月段落(平成29年度決算)分析を行った結果が、図2です。

394憶円の区分の仕方は、図1と少し違いますが、共通点が大事です。精神病院運営、救急医療、周産期・小児医療等、具体的な医療活動に使っているのです。

結果、都庁内の世論としては、400憶円赤字設は、消滅しました。

しかし、政府やマスコミの一部は、繰り返し繰り返し、一般会計からの「繰出金」を赤字と決めつける論調が続いています。それに惑わされないようにすることが大切です。

検討2・提案 新しい福祉医療行政への転換を目指します。

患者の要望を実現するため、未来へ発展する都立病院のため、新しい領域として「福祉医療行政」に取り組むことをめざします。

□いのち・健康を守る医療に加え、質の高い医療と、新たに福祉医療行政に取り組む都立病院を実現する。

□都立病院の民営化・縮小・統廃合の行政理念として使われてきた「行政的医療」から、医療難民の救済も可能になる「福祉医療行政」を目指す。

□医療の本質的サービスについて見直しをする。かつて都立病院の役割にあった考え方を復権する。クオリティ・オブ・ライフと院内の美しさまで配慮された「心温まる医療」の実現

自治体の総合行政が、都立病院の可能性を広げていく

自治体行政として都政に必要とされていることは、公共的役割を縮小してきた「行政的医療」ではなく、住民の暮らしを丸ごとサポートしていく自治体機能を発揮した福祉医療行政としての「総合行政」が、求められています。

図3のように、都立病院をまん中にして、住宅・保健衛生・まちづくりの都政による都民サービスを幾重にも重ねて、都民生活の「医療と暮らし」が両立するのです。

例えば、一人くらしの若者、ひきこもりの中年、認知症になりかけの高齢者の「医療と暮らし」をささえるためには、医療福祉のケアサービスとしての現物給付と生活を支える現金給付が必要になります。

現物給付と現金給付は、住まいの確保から生活保護認定までのつなぎの生活資金など、都政が持っている生活支援政策を統合化することで、入院から退院後の生活までをサポートすることが可能です。民間病院や地方独立行政法人病院は、効率的医療に特化された社会的機能しか持ち得ません。

都立病院に入院した場合、自治体の総合行政によって、都民の「医療と暮らし」を守ることが、可能になります。それに向けた都立病院の「都政内の政策連携」改革が、求められています。

検討3・提案 人間が輝く都立病院づくり

都民・患者・職員の積極的な参加にもとづき、民主的で明るい誠に効率的な病院運営を確立するとともに、その下で患者の人権と尊厳を守り、医療過誤を未然に防止する診療形態の実現をはかりる。

□都立病院は、都民と患者・家族の希望をいつでも受け入れて改革していく必要があります。そのために都立病院へ都民と患者・家族の要望が、反映できる参加の場を創ります。

□都立病院の医療を担っているのは、医師・看護師・医療に従事する職員集団です。それぞれの専門の意見を公平に扱い、それが日常の医療活動に反映できるために、管理委員会メンバーに、職能として医師・看護師・ワーカーなどの代表、そして労働者代表として労働組合の立場からの参加を保証します。

□PFI、指定管理者制度、公社・第3セクター、民間委託業務の中の管制ワーキングプアを根絶します。過大な利益がでている民間委託は、直営に戻すことを検討します。

〇患者の人権と尊厳を守るため「都立病院の患者権利宣言」の理想が、どの医療場面でも反映された病院づくりに全職員で取り組む。

〇都民と地域の参加で、民主的な都立病院の運営で行う各病院に「都立病院協議会」を設けます。

〇地域医療の中核病院として、医療機関・福祉施設に開かれた都立病院の改革

〇医療に従事する職員の参加で、明るい民主的効率的都立っ病院の運営

〇行うの民間委託、指定管理者制度やPFI事業の抜本的見直しを行います。

提案・都立病院は、直営を堅持して、医療の充実を促進して、経営改善を行います。そのために都立病院「地方独立行政法人化の検討」は、止めることにします。

利益追求の「地方独立行政法人化」ではなく、都が直接に責任を負う体制の下で、医師・看護師など病院職員が生き生きと医療に取り組み、患者や都民が望む受信が増えることで、経営の維持と安定を図る病院経営をめざします。

□地方独立行政法人よりも直営自治体病院が、優秀な経営実績をあげることができます。

□予算は、当初予算だけではなく、必要な補正予算を組んで、人材確保・医療機器・薬剤師等の購入を柔軟に取り組みます。

□約7000人の都立病院の職員の定数管理は、出産・介護・学校歳入額の異動等、さまざまな要望に対応してきました。定数・人事・給与の現在の柔軟な運用をさらに拡大させていきます。

□神経病院・広尾病院で検討されている立替にともなう、民間資本活用のPFI方式は止めて、訳3兆円の貯金を有する都財政を中軸とした直営による建設設計・工事施工を求めます。直営方式(従来の方式)は、公共責任が保たれます。PFI方式では、民間資本の利益を求める事を基本とした設計・工事になります。同時に安あがりの下請仕事を廃止するために東京都に公契約条例の制定を求めます。それにより建設現場での2次下請3次下請による、労働者の低賃金雇用の全廃を目指します。

〇地方独立行政法人化は、公費削減が最大の目的です。公的部門の民営化の手法の一つです。「官から民へ」大号令のもと、小泉政権の時に作られました。地方独立行政法人は、自治体の仕事の委託を受け付けています。東京都の地方独立行政法人になった部署は、旧養育院・健康長寿医療センター、それに首都大学東京と産業技術研究センターです。国立大学や国立病院も独立行政法人化されました。その狙いは、運営費交付金(国の補助金)削減にあります。毎年毎年、国の補助金が減額されるために、東大では非常勤講師が激増しました。また国立病院では、医師の臨床研究と治療の取組が困難になり、多くの有能な医師が去ってしまったといわれています。

〇地方独立行政法人病院には、正規の公務員がいなくなります。かつて公務員型と非公務員型とありました。しかし、都立病院が地方独立行政法人になると全員が東京都の職員ではなくなり、非公務員になります。これは、総務省の方針です。地方独立行政法人化された公立病院は、利益追求が前提になるため、そのしわ寄せとして、医療労働者の賃金抑制・超過勤務が起こっています。

〇東京都は、予算・定数管理・兼務等の「制度的な制約」を取り除くために地方独立行政法人化をめざすとしています。その主張は正しいのでしょうか。

先行している地方独立行政法人化の経営実態

その1・地方独立行政法人化して10年たった健康長寿医療センターは、労働条件悪化

旧養育院を地方独立行政法人化にする理由として、経営改善が進むことが繰り返し、述べられました。2009年から今年で10年経過しました。では、健康長寿医療センターの経営は、好転したのでしょうか。

図4を見てください。「経常収支比率」は、補助金を加えた財政指標です。100%が、赤字黒字なしの状態とみなします。また「営業収支比率」は、補助金を除いた財政指標です。100%に近いほど、自律性が高いと解釈します。どちらの指標も10年間で、右下がり傾向になっていました。決して独立行政法人化したことで、経営改善が実現できたという財政指標ではなかったのです。

つまり、当初目論んだ地方独立行政法人による経営改善は、オーバーに言えば「失敗」をしているという評価ができる財政状態であるということです。

さらに追加をしておくこととして、東京都の病院経営本部は都立病院の経営指標として「事故収支比率」を採用して、医療現場に「事故収支比率の上昇」を求めてきました。この「事故収支比率」は、東京都の独自の指標であり、「経常収支比率」「営業収支比率」よりも、低くなる計算式になっています。

地方独立行政法人化された「健康長寿医療センター」には「自己収支比率」による財政効率化は、存在しないのです。全国的な統一された総務省基準になると東京都のオリジナル「自己収支比率」は、消えてしまいます。

また、看護師の賃金も20歳代では東京都の賃金よりも高いのですが、30歳代後半から逆転して、生涯賃金では、大きな差が生まれます。(5図)

独立行政法人化された場合、看護師などの賃金が、他の民間病院と比べても低いために、職場には不満がまん延しています。

その2・全国の比較検討ー直営公立病院の方が経営改善は進んでいる

全国の比較を行いました(直営公立病院 805、地方独立行政法人 88)。直営公立病院に地方独立行政法人化病院を加えた分析の方法です。国と自治体の補助金を除いた病院財政を分析しました。こうした経営分析の方法をとって分析したのは、東京都病院経営本部が採用している「事故収支比率」は、部分的(意図的と言ってもよい)公的資金と特別損失を組み入れた計算式になっているからです。

本当に病院単独の収支だけの病院経営分析を行うと、直営公立病院、地方独立行政法人化病院はどのようになったでしょうか。

図6は、経営改善トップ10の自治体病院を示しています。

地方独立行政法人化された病院は、10くらいの中で一つだけです。あとの9つは、直営の公立病院でした。直営の場合は、医療活動を縮小するのではなくて、拡大をしていることが経営改善になっていました。地方独立行政法人化すると病院の経営改善が進むという言い分は、「虚構」ではないでしょうか。

医師不足が病院経営に与える影響

長年政府は医師不足の原因は「偏在」としてきましたが、実は絶対数が不足しているのです。日本各地の人口当り医師数を見ると、確かに西高東低で地域による偏在があります(図7)

しかし日本で一番医師が多い徳島や京都もOECD(経済協力開発機構)加盟国の人口当り医師数に達していません。日本の医師の総数は約32万人ですが、もし日本の医師がOECD平均並みに存在すると仮定して試算すると約44万人となります。世界一高齢化で医療を必要とする日本がOECD平均より12万人も絶対数が不足しているのです。

東京も日本国内では医師数は多い地域ですが、都立病院でも医師の長時間労働は珍しくなく、必要な専門医を十分に確保することは容易ではないのが実態です。その結果外来診察や入院治療を十分に受け入れられない、医師不足も都立病院の経営を圧迫している一因となっているのです。

都道府県に公的病院の削減を民間病院よりも優先させる政府の問題

都道府県が独法化を急ぐ理由は病院に対する繰入金等を少しでも減らしたいことは明らかですが、繰入金問題の深層に日本の医療費が理不尽に抑制されている実態があります。

国の医療費抑制の問題を放置して、都道府県が病院の地方独立行政法人を進めれば、医療費負担が容易でない高齢者や貧困層を受け入れる医療機関が崩壊してしまいます。

都立病院の独立行政法人化問題に関心が集まっている今こそ、日本の医療体制の矛盾の見直しを行う最大のチャンスとすべきです。

※この資料は「都立病院の充実を求める連絡会」より、自由に使用をできる旨を受け掲載をさせていただいております。

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